杉浦邦恵 うつくしい実験/ニューヨークとの50年

杉浦邦恵 うつくしい実験/ニューヨークとの50年

1967年からニューヨークを拠点に活動をしている写真美術家、杉浦邦恵さんの、日本では初となる大規模な個展が東京都写真美術館で開催。「見てみたいわね〜」なーんて思っていたところ、友人たちが声をかけてくれたので一緒に観覧して行ってきました。

見終わったあとは、友人たちとやや興奮気味でおしゃべりが止まらない感じに!50年前から、こんなに前衛的な試みをしていたアーティストがいて、いま見てもとても刺激的であるということが、嬉しく思えたほどでありました!

杉浦邦恵 うつくしい実験/ニューヨークとの50年

杉浦さんは、1963年20歳の時にシカゴ・アート・インスティテュートへ留学をし、写真と出会い、そこで2人の先生からファインアート(芸術)としての写真を専攻しないかと声をかけられたことをきっかけとして写真の道に入ったのことです。当時アートといえば、絵画や立体がメイン。杉浦さんの他に写真を専攻した学生はいなかったとのこと。

アートじゃない写真があるところが素晴らしいと思う。ただの記録、ただのニュース写真や、コマーシャルや、そういう中にアートがあるということで馬鹿にされていたわけだけれど、同時に、そういうところ結びついていることが面白いと思う。

「スペシャル・トーク 杉浦邦恵 × あがた森魚 × 川口賢哉」Youtube動画より(東京都写真美術館)

当初から実験的な方法での制作を進め、卒業後の1967年にはニューヨークへ拠点を移します。70年代、80年代、90年代と様々な手法を駆使して新しい作品を次々と制作。途中、絵だけを描いていた時期もありながら、そのうちに「自分はやはり写真からインスピレーションを得るのだとわかった」とのこと。

写真は光によって描かれるメディアであると、伝統的なフォトグラムの手法を用いた作品も発表。植物、動物、人物と被写体を変化させながら、独自の作風を確立していきました。

ちなみにフォトグラムとは、カメラを使用しない写真のことで、印画紙に直接モノを置いて感光させて制作された写真たちのことです。通常はモノがある部分が感光せず白く残り、周りの空間は感光し黒くなります。影を写し取る写真といったところでしょうかね。

《飛び跳ねる D ポジティブ》1996年 ゼラチン・シルバー・プリント  作家蔵
Courtesy of Taka Ishii Gallery
《飛び跳ねる D ポジティブ》
1996年 ゼラチン・シルバー・プリント  作家蔵
Courtesy of Taka Ishii Gallery
(東京都写真美術館Webサイトより引用)

正直なところ、今までフォトグラムの魅力がいまいちわからなかったんですよね。自分でもやってみたいなと思いつつ、ついその機会を逃していたせいもありますのでしょうか。。(多分経験してたら、別の見方をもっと早く得られていただろうか〜)

しかし今回の展示を見て、少なくともフォトグラム作品の捉え方が変わりました!「“そのものがそこにあった”んだなぁ〜」ということが、急にリアルな感覚として「見えてきた」というか、感じられて。

たとえば「子猫の書類」という作品は、2匹の子猫を感光紙の上に一晩置いて、朝に感光させるという撮影を7日間行なっています。夜のうちに自由に動き回っていた猫たちの軌跡が、そこに凝縮されて浮かび上がるという面白い試みもされていました(足跡もかわいらしく)。

アートはサイエンスみたいに、いつも前に行くものだと思っているんですよ。ある種のことが受け入れられて、確立したら、それは今度は登るターゲット、打ちくだすターゲットで、必ず、アーティストはその先に行くべきだと思ったんですよ。

「杉浦邦恵 スペシャルインタビュー」Youtube動画より(東京都写真美術館)

杉浦さんは90年代に入ると、ニューヨークで篠原有司男氏と知り合ったことをきっかけとして、人物を被写体とした作品を制作。これらはやがて「Artists and Scientists(芸術家と科学者)」のシリーズへとつながっていきます。仕組みとしては壁に貼られた感光紙の前に人物を配し、暗闇で光を当ててその影を感光させるというもの。被写体である人物と、彼らを象徴するようなアクションやシンボルもともに写るようになっています。

ボクシングの書類 篠原 Bp3  
1999-2000年 ゼラチン・シルバー・プリント
(東京都写真美術館Webサイトより引用 )

今回のポスターになったのもその1つで、ほかにはジャスパー・ジョーンズ、草間彌生、葬国強、村上隆らアーティスト達や、P.K.シェー博士など科学者たちのもの。ほかにも「マット+ニコ」という恋人同士の愛の営み真っ最中の作品も他の人物像と写しかたも違ってて見入ってしまった。

不思議なことに街で見かける「等身大パネル」の方が顔も写っていて、大抵カラーでできているから本物に近いはずなのに、このシルエットだけの作品の方がよりリアルな気配を保ち続けているように感じられました。

「ああ、まさにこの紙の真ん前に、この形で、この人たちが居たんだ」

と、自分が立っている位置と、かつての被写体の人物を重ねてみたりして。
なんとも言えない緊張感というか、、
個人的には衝撃といってもいいくらい、ビリっときちゃいましたね。

写真は今で、生きてて、事実、そういうことが素晴らしいと思う。自分のエゴを出して、「自分はこんな風に見る」というよりも、社会の一部と結びついている感じに安心感がある。地球の一部にくっついているような。そんなことを自覚したい。

「スペシャル・トーク 杉浦邦恵 × あがた森魚 × 川口賢哉」Youtube動画より(東京都写真美術館)

「杉浦邦恵 うつくしい実験/ニューヨークとの50年」

開催期間:2018年7月24日(火)~9月24日(月・振休)
会場:東京都写真美術館

《インタビュー動画》

・東京都写真美術館 スペシャルインタビュー 
http://topmuseum.jp/contents/new_info/index-3160.html